FEATURE

2017/07/26

寄稿 「この町の理由」     蛇谷りえ

わたしが辿り着いた鳥取県東伯郡湯梨浜町には、大きな東郷池があって、池の向こうに見える夕陽はピンク色の、いや、色の名前にあてはめるのが惜しむほど、いろんな色を表している。松崎駅を降りてすぐ旧東郷町が広がり、東郷池をかこむように町があって、どこからでも 池を眺められることができる。

この町で暮らす人たちはよく働く。呉服屋、お茶屋、八百屋、畳屋、酒屋、仕出し屋、魚屋、醤油屋、酒造、日用雑貨店、衣料商店、文具屋、写真館、床屋、大衆浴場、パン屋などなどが今もある。商店の通りを歩いていると慌ただしく働く気配や人の目が行き届いた新鮮な空気が流れる。山の方には梨の農業を営む人たちが暮らしている。

この町には、仕事や家のこと以外に、「町のこと」がある。

春は、親戚の農家のお手伝いをしたり、野菜やお花の小さい市があったり、夏は男たちが力を合わせて水郷祭の準備をして屋台が並び、秋は三八市と秋祭りが開かれる。三八市は手作り朝市で、主に女たちが商人・住民問わず、自分たちが楽しめる程よいサービス精神で客を迎え入れる。秋祭りには、松崎神社から男神輿、女神輿、こども神輿が出てきて、町中を練り歩く。そうやって年中いろいろなことがある。

「町のこと」に参加すると、仕事のときとはちがった一面をみることができて、会話が弾む。毎年繰り返される「町のこと」が人々の手によって維持されていることがわかると、手伝いにも自然と気合が入る。

この町の人は、荒波のような社会の激動も、人間関係の小さな摩擦も、耐え忍びながら受け入れ、身を委ねる。わたしもこの町で店を構え、寄り添うことで、人々がつくってきた、やわらかくて力のあるものに触れることができる。この町には、これから生きていこうとするわたしたちにとって、生きのびるためのヒントがたくさんある。

町は民がつくる。それぞれが共に関わり、仕事や家庭以外の方法で。その術をわたしなりに身につけられるようになりたいと思う。